じ ょ う ざ い 2 4

おはなし デジオ猫ちゃん

ある日、猫は神様に言われました。

「おまえは今日から百日だけ人間の言葉を喋る事ができる。
百日というのは、ええと…百回陽が沈んで、百回陽が昇るまでだ。」

猫は「ひゃくにち」がなんなのか良くわかりませんでしたが
「百回太陽が昇るまでなんだな」と思いました。

でも猫は別にしゃべりたく、ありませんでした。
それよりも、自分のお気に入りの鳴き声をしばらく聴けないと思うと少し悲しくなりました。
ですので夜になるまで一言も喋りませんでしたが
寝る前になって、
突然自分がどんな声なのか気になってきてしまい
昔に拾ったICレコーダーに自分の声をとってみました。
「アー、アー、こんにちは。こんにちは。ぼくは猫です」
声は思っていたよりずっと変だったので猫は大変ガッカリしてしまいましたが
ICレコーダーに声を入れるのはなんだか楽しかったので気にいりました。
猫はしゃべられる間、毎日ICレコーダーに声を入れる事にしました。
録った声はとくいのインターネットでみんなに聞かせてあげることにしました。
ホームページには『デジオ猫ちゃん』という名前をつけました。
デジオというのはでっちあげラジオを短くした言葉です。
猫は前に電器屋さんのテレビでみたタナカカツキさんの映像が大好きだったので
マネをしたくなったのかもしれません。

その日から毎日毎日、猫はしゃべりました。
三鷹から、渋谷から、北海道から、自分の家から。
インターネットではしゃべる猫がいると
少しずつ聴く人も増えていきました。
たまにメールがくると猫はうれしそうにそれを読みました。
瞬く間にひろがる世界はまるで宇宙のようです。

ある時は歌を歌いました。
ある時はラップをしました。
ある時は初めて明かす事を話し、ある時は嘘をつきました。
おしゃべりはだんだん上手になり楽しさは毎日増えていきました。

喋り始めてから99回陽が昇りました。
猫は毎日陽が昇るのを数えていました。
「ああ、明日でしゃべられなくなるな・・・」
猫はすこしかなしい声でしゃべりました。
「明日は今までで一番しゃべろう。そして最後にさよならって言おう。
僕はいなくなるわけじゃないけど、この声でしゃべれるのはあしたでさいごだから。」

次の日の朝、猫は早起きをしました。
まだ陽の昇る前で、空は薄くて暗い青色でした。

「アー、アー、こんにちは。デジオ猫ちゃんです。
今日はデジオ猫ちゃんの最後の日です。
なぜかというと、今日はひゃくにちというものだからです。
ぼくは百回太陽が昇るとしゃべられなくなってしまうのです。
だから今日はたくさん、たくさんしゃべろうと思います。
とても長い放送になってしまうのでがんばってきいてください。
今日は、まずはカレーのお話から…」

という所までしゃべったとき太陽が昇ってきました。
猫は「あれ?」っと思いました。
声がなんだか変です。
うまくしゃべろうとしても、声が出ません。
かわりに昔聞いた事のある小さな鳴き声が聞こえてきます。
「ニャーニャーニャーニャー」
それから猫はしゃべることができなくなりました。

猫はたくさん雪が降った日、一日中、太陽が全然見えなく暗い暗い1日だったので
その日を数えていませんでした。
猫にはそんな事おもいつきもしませんでした。
猫は最後にちょっとだけとった声をインターネットにアップして
また普通の猫にもどりました。

2005/3/8 (火) 03:11:00

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